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REPORT

領域横断ゲストクリティーク「異なる体の出会い」伊藤亜紗(美学者/東京工業大学教授)

  • 領域横断レクチャー

「異なる体の記憶が、別の、しかも条件の異なる体と出会う。この接触は、違和感を生み出すこともあれば、逆に体を変えるような学びの機会になることもあります。」

互いに異なる都市への視座を持つ学生同士の研究成果が一堂に会し、社会科学・建築学・土木工学・芸術文化学などの学問領域を超え議論を展開することで、自らの論および「都市」に対する思考を深めます。

ゲストプロフィール

伊藤亜紗 

美学者。東京工業大学科学技術創成研究院未来の人類研究センター長、リベラルアーツ研究教育院教授。MIT客員研究員(2019)。もともと生物学者を目指していたが、大学3年次より文転。2010年に東京大学大学院人文社会系研究科基礎文化研究専攻美学芸術学専門分野博士課程を単位取得のうえ退学。同年、博士号を取得(文学)。主な著作に『目の見えない人は世界をどう見ているのか』(光文社)、『どもる体』(医学書院)、『記憶する体』(春秋社)、『手の倫理』(講談社)。第13回(池田晶子記念)わたくし、つまりNobody賞、第42回サントリー学芸賞、第19回日本学術振興会賞、日本学士院学術奨励賞受賞。

レポート

Y-GSA、Y-GSC、都市地域社会、建築都市文化専攻の4分野から7人の学生が参加し、発表10分、コメント10分ののち学生を交えてディスカッションを行なった。研究のタイトルはそれぞれ、「Teo-Study on the qualitative place by trace and time-」(洪承佑さん/Y-GSA)、「愛憎建築-くせで捉えて建築を考える―」(香川さん/Y-GSA)、「体の持つ記憶をさぐる過程において生まれるダンス」(今井さん/Y-GSC)、「事象が隣合うとき—リサーチから物語る制作実践—」(湯田さん/Y-GSC)、「観光と写真のエージェンシー ―カメラの変遷との関連において―」(宮田さん/地域社会系)、「近代建築の文化施設へのコンバージョンから見る文化的差異に関する研究―東京都と台湾台北市の建築価値の比較から―」(中村さん/地域社会系)、「新駅が開業した地域における地域活動の変化に関する研究―神奈川県に開業した新駅を対象としてー」(小泉さん /建築系)であった。

講評では数々の示唆に富むコメントをいただいたが、その中でも「問題の分析と解決の物差しは異なる」というコメントが強く印象に残っている。建築を学ぶものとして、分析の視点が、意識的か無意識的かに関わらず、空間的なものに縛られてしまうことが多い。伊藤さんの指摘では都市に発生する問題は複雑な構造を持っており、それらを解決する手段として空間的な言語を用いるのは有効だが、分析の際に空間的な言語を用いると本質が捨象されてしまうのではないかというものであった。私自身も設計を行う際のリサーチの中で空間言語を拠り所にするあまりその背後に潜む人々の関係性など、その場所が持つ固有性を取りこぼしてしまうことが多かった。人々の活動という時々刻々変化する現象を、建築やそれによって作られる空間言語によって分析する違和感を言語化することができ、学びの多い会となった。

レポート:町田駿之介(Y-GSA)